猫は猫  
 

 眠っていた子猫が目を覚まし、ニャーニャー鳴き出した。箱の中をぐるぐる回り、しきりに毛布を掘ろうとしている。
「あ、おしっこと違うかな」
 ばあさんが立ち上がった。
「どうしよう、砂がない」
 小夏が焦った。
「新聞でええやん」
 夕刊を広げていた圭吾が言った。
「そや、新聞や」
 小夏が大急ぎで新聞を引き裂き、別の箱に敷いた。そこに子猫を入れてやると、ちょこんと腰を下ろした。ちょろちょろと音が聞こえ、用を足し終えた子猫が元気よく箱から飛び出た。
「へぇ~、教えんでもちゃんとするんや」
 小夏が感心して子猫を抱き上げた。
「圭吾さん、先に風呂入ってこの子洗ってよ」
 小夏が圭吾に猫を渡すと、
「えーっ、どうやったらええねん」
 圭吾が困った顔をした。
「適当でええねん、シャンプーしたって」
「シャンプー?」
 声が裏返っていた。
「ほら、入って、入って」
 小夏に急き立てられ、圭吾は風呂場に向かった。
「ぬるい目のお湯にしてや、終わったら呼んで」
 風呂の戸を閉めて、小夏はばあさんの所に戻って来た。シャワーの音に混じってぎゃあぎゃあ鳴き叫ぶ子猫の声が聞こえて来る。生まれて初めての風呂に仰天しているのだろう。
「ほらほら、ええ子やな。シャンプー気持ちええやろ?もうちょっとやで」
 風呂場から子猫をあやす圭吾の声が聞こえて来て、ばあさんも小夏も顔を見合わせて笑った。時間にして約十分、
「子猫出るでー」
 圭吾の声に小夏がバスタオルを持って風呂場に向かった。濡れ雑巾のような子猫の身体はみすぼらしくて、
「なんやこれは」
 ばあさんが顔をしかめた。しかしバスタオルで水分をふき取りドライヤーをかけると、汚れて固まっていた毛が綺麗に起き上がってふわふわの美猫になった。
「わあ、綿菓子みたいやな」
 ばあさんが嬉しそうに顔を摺り寄せた。
「雑種と違うんかな」
「うーん何やろな、思ったより毛が長いな」
 ばあさんも小夏も首を傾げた。
「ひょっとしたら掘り出しもんかも知れんで」
 にんまり顔のばあさんに、
「何でもええ、猫は猫や」
 小夏にブランドは関係なかった。
「可愛いな、気持ちええな、名前なんて付ける?」
「名前なあ・・」
「公園で拾ったからパークってどう?」
「パーク? ダサ過ぎ」
 小夏が顔をしかめた。
「縞縞の毛でしまちゃん」
 余計嫌そうである。
「圭吾さんのゴルフ好きにあやかって、ホールインワンのワンちゃん」
「猫やっちゅうねん」
「ほな」
「もうええ、名前はこっちで考えるから」
「冷たいなあ」
「あんたが飼うんやったらあんたの付けたいようにしたらええ、でもこの猫はうちの猫やからうちで名前つける。文句ある?」
「ないよ」
「ほな名前の話はお終いや、コーヒーでも入れよか」
 小夏が立ち上がった。時計が午後九時を指していた。
「あ、私コーヒーええわ、今日はもう帰るわ」
「怒ったん?」
「違う違う、やっぱりよその家は泊まりにくいわ。一時間で帰れるし」
「そうお? ほな、駅まで圭吾さんに送って行ってもらうわ」
「あ、ええって、風呂入ったのに風邪引いたらあかん。一人で大丈夫や」
「遠慮せんでええから、ちょっと待ってて」
 小夏が部屋を出て行き、待つ間もなく圭吾がコートを持って現れた。
「ええ言うてるのに、すんません」
 ばあさんが恐縮していると、
「気ぃ遣わんでええって、女の一人歩きはぶっそうやからな」
 圭吾がコートを羽織った。ばあさんは子猫にさよならの頬擦りし、小夏に礼を言って家を出た。