同期生  
 

 ばあさんと小夏は高校を出てある百貨店に就職した時の同期生であった。二週間の教育期間中、隣の席にいつも小夏がいた。連日、朝の九時から夕方五時迄、延々と続く講習に誰もがうんざりしていた。小夏はと見ると、漫画を書くのに夢中で資料もまともに開けていない。
「この子大丈夫かいな」
 横目で見ていると案の定小夏の名前が呼ばれた。小夏は気が付かない。三回続けて名前が呼ばれ小夏がハタと顔を上げた。商品券の受け取り方を習っている最中で、周りの視線が小夏に集まり、名指しされた小夏が慌てて立ち上がった。
「名前を呼ばれたらさっさと立ちなさい」
 教育係が怒鳴った。
「商品券は釣銭が出ますか?」
 そんな質問に小夏が答えられるはずがない。口を半開きにしたまま固まっている。ばあさんは自分のノートに「でる」と書いて小夏の指先に押し出してやった。それを見た小夏が、
「出ます!」
 大声で叫んだ。教育係は軽く頷いて、
「では、商品交換券も釣銭が出ますか?」
 もう一度質問してきた。商品券も分からない小夏が商品交換券のこと等分かるはずもない。ばあさんは今度は「×」と書いてやった。
「出ません!」
 小夏が答えた。
「よろしい、座りなさい」
 大きく息を吐いて腰を下ろした小夏は、ばあさんを見てにこっと笑った。その日を境に二人の距離が近付いた。ばあさんの時代には百貨店にも定休日があり、休みの日には仲良く買い物をしたりアイススケート場や卓球場で遊んだりした。
 朝、会社に来ておはようの挨拶を交わし、いつものように仕事場に付く。人の噂話に適当に首を突っ込み、ああでもないこうでもないと、どうでもいい話をしながらいつの間にか五年の月日が流れた。
 ある日のこと、
「私、結婚するかも知れん」
 小夏がばあさんに言った。
「えっ、誰と?」
 ばあさんがびっくりして大声を出した。
「兄貴の友達やねんけどな、ちょこちょこ家に遊びに来る内にだんだん喋るようになって、二人で遊びに行ったりしててん」
 小夏の言葉にばあさんが大きく頷いた。
「道理でこの頃付き合いが悪くなったと思ってたわ」
「親も早よ結婚せえ言うてうるさいしな」
「何で今まで黙ってたん」
「うん何でやろな。何か言いそびれててん」
「そんな大事なこと、もっとはよ言うてや」
「ごめん、ごめん」
 小夏は嬉しそうに笑った。
「男前?」
「うーん、中の上ってとこかな」
「ええやん、あんまり選り好みしてて売れ残るのも嫌やしな、いっぺん紹介してえや」
「うんええよ。ふみちゃんもあんまり選ってたらあかんで。適当なとこで手打たんと残りカス掴んでしまうからな」
「と言うて処分特価するにはまだ早いやろ?」
「いやいや、そう思ってのんびりしとったら夏の焚き火で誰も手を出さんようになる」
「まあな、難しいとこやな」
 言いながらばあさんは初恋の少年の顔を思い浮かべていた。その地点では、まさか小夏の相手が津村圭吾とは夢にも思わなかった。
 半年後、小夏は津村圭吾と結婚した。控え室で小夏の花嫁姿を見た時、あまりの美しさに胸がキュッと縮んだ。そしてその瞬間、体の中に居座っていた少年への思い入れも遠退いた気がした。