再会
 

 次に彼女を見たのはそれから半年経ってからだった。親戚の家に行った帰り、バスを待っている道路を挟んだ向かい側の中華料理店に入って行く所だった。 
 半年前に見た時と同じ白いショルダーを提げている。後ろからで確証はなかったが、店に入る前に例の時計を触ったように見えた。30分に1本のバスがすぐ近くに来ていたが、それには構わず急いで道路を渡った。 店に入ると、彼女は入り口近くの少し窪んだ席にいた。気付かれないように遠回りをし、斜め後ろの彼女の背中を見る位置に座った。 

 やはり時間が気になるらしく、テーブルの上で人差し指と中指を動かしながら厨房と時計を交互に見ている。 程なく彼女のテーブルにチャーハンが運ばれてきた。
 あの日と同じように凄い勢いで食べ始め、数分で食べ終わると水の入ったコップを握った。 
「今だ! 」
 急いで彼女の横に走った。真横に立った僕を見て彼女は慌ててコップを放した。目を瞬かせ呼吸を整えるように息を吐いている。 これで正体が暴ける。単純にそう思った。 
 しかし彼女が取り乱したのはほんの一瞬で、すぐに落ち着きを取り戻すと、レシートを掴んで立ち上がった。そのまま勘定を済ますと何事もなかったかのように店から出て行ってしまった。 
「えっ、何だ、どうしたんだ」
 店を出て行く彼女の後姿を見送ってから、ようやく自分のヘマに気が付いた。彼女が次の行動を起こすまでもう一段階待つべきだった。真相を見定める絶好のチャンスだったのに、焦って先走ってしまった。

 彼女と再び会うのに半年かかっていた。今度いつ会えるか分からない。もう会えないかも知れない。テーブルにいい匂いの中華丼が運ばれてきたが、一口も食べることなく店を出た。店を出たところで中年の男性とぶつかりそうになった。 
「あ、すみません、あの、赤いパーカーを着た高校生くらいの女の子を見ませんでしたか?」 
 左右を見ながら訪ねると、男性はちょっと考えて、
「ああ、あの子ね、あの角ですれ違いましたよ」 
 彼女の行った方向を手で示してくれた。 
「あ、どうも有難うございます」 
 男性に礼を言って急いで追いかけて行った。教えてもらった角を曲がると、低いブロック塀の上で寝そべっている猫の写真をスマホで撮っている彼女がいた。当の猫は知らん顔で、大口を開けてあくびをしている。彼女がバッグからパンのような物を出して置いてやると、猫は間髪を入れずにかぶりつき、食べ終わるとさっさと塀の向こうに降りてしまった。
 再び歩き出した彼女の後を追って歩き始めたが、しばらく歩いたところで散歩中のボルゾイ犬に出会い、飼い主と二言三言話しているうちに、大きな門の家の前で見失ってしまった。慌てて周辺を探したが彼女の姿はもうどこにもなかった。