目撃者
 


  徹は1週間後にICUからナースセンター横の回復室に移され、更に1週間後に4人部屋に移された。1か月が過ぎた頃には落ち着いた状態になったが、依然として意識は戻らず、入院費のこともあっていつまでも店を休んでいられないと母親が言った。
 パートさんにも無期限で休んでもらうわけにはいかず、休業中の賃金を補償することで納得してもらい、午前中は僕が徹のそばにいて、夕方から母親が付き添うということにした。

  犯人の手掛かりを求めて何度も事故現場に行ってみたが、いくら大雨と言ってもあの場所で目撃者がいないというのが不思議でならなかった。植え込みの横に事故の日時と目撃者からの情報を求める看板が立て掛けてあったが、それを見て通る人はいない。 
  人を撥ねた衝撃は大きかったはず。翌日の新聞にも載って、いたので加害者は自分のしたことが分からないはずがない。にも関わらず、今も知らん顔でこの道を通過しているかも知れないと思うと腸が煮えくり返る思いだった。 

 車の流れが少し途切れた時、見覚えのあるバッグが目の前を横切った。 
「えっ! 」
 持ち主を見ると何とあの時の少女だった。やはり悠然と歩いている。急いで後をつけたが幾つかの角を曲がった時に、またしても姿を見失ってしまった。 尾行とはこんなに難しいものなのか。それでも周りをキョロキョロ見回していると、見失ったはずの彼女がぱっと目の前に現れた。 
「私に何かご用ですか」 
 以前公園で声を掛けた時と同じ怖い顔。言い訳が思いつかず黙っていると 、
「あなたのしていることはストーカー行為ですよ」 
 思い切り睨みつけられた。 
「私を追いかけている姿を撮らせてもらいました。今後このようなことがあれば警察に行かせてもらいますから」 
 赤いスマホをバッグにしまうとくるりと背を向けて歩き出した。しかしここで諦めるわけにいかない。今の時刻は徹が撥ねられた時間帯、彼女はもしかしたら事故を目撃しているかも知れない。とにかく情報が欲しかった。 
「すみません、僕の友人が事故に遭ったんです。1カ月経っても意識が戻らないんです。さっきの交差点の曲がり角付近です。目撃者を探しています。協力してもらえないでしょうか」 
 去っていく彼女の背中に叫んだ。
「1カ月前の今頃、あの辺りを通りませんでしたか? 大雨の降った日です。何か、何でもいいんです。見たことでも聞いたことでも。ちょっとしたことでいいんです。知っていたら教えて貰いたいんです。お願いします」 
 叫ぶように早口でまくしたてた。しかし一旦は立ち止まった彼女だったが、そのまま振り返ることなく行ってしまった。彼女の前に回って引き止めたかったが、ストーカーと言われたことが頭に引っかかり、これ以上追いかけることが出来なかった。