それから数週間後の深夜、山城家の近くのコンビニで殺人未遂事件が起こった。レジから死角になっている場所で、男性が喉から血を流しているのを見つけた店員が110番通報し、救急車が到着した時はかろうじて息をしている状態だった。
一連の報道によると、午前2時から2台ある防犯カメラのどちらの記録も停止しており、2時12分になって床に倒れている被害者が映し出されたという。午前2時前に文房具コーナーにいる被害者の姿は録画されていたが、2時からの12分間は被害者も犯人らしき人物も誰の姿も映っていなかった。
短い時間の不可解な出来事で、ふと彼女と最初に会った時のことを思い出した。もの凄い勢いで丼を食べ終わった彼女が、目を開けていられない程の閃光の後、瞬間移動したかのように窓の外を歩いていた。あれは見間違いなんかではない。絶対に現実だった。
事件のあったあのコンビニは、彼女が出てきた大きな門の家から100m程の所にある。2台あるカメラの映像が両方共同じ時間に、しかも同じ12分間だけ止まるなんてどう考えてもおかしい。こじ付けではなく、何らかの理由で彼女が関わっていると思った。
大きな門の家と彼女との関係を調べてみようと、退社後にもう一度あの家に向かった。灯りのついている部屋を見上げていると、カーテンの端が揺れ動くのが見えた。誰かいる。一旦門を離れて少し先の電柱の陰から様子を見ることにした。暫くすると通用門が開き、中から人が出てきた。手に持ったゴミ袋を門の脇に置いている。
「えっ! 」
外灯に浮かび上がった人物を見て驚いた。彼女だった。両手をジャンバーのポケットに突っ込んでこっちに歩いて来る。慌てて陰に隠れ、彼女が行き過ぎるのを待った。
と、後方から
「ちょっと麻衣ちゃん!」
彼女を呼び止める声がした。
「何度言ったらわかるの。ゴミは朝に出しなさいって言ってるでしょ。野良猫やカラスが袋を破るからって、この間も言ったじゃないの。いい加減にしなさいよ」
でっぷりしたおばさんが大声を出している。しかし彼女は振り返らない。
「今度、夜に出したら中に放り返すからね、いいわね」
おばさんの怒鳴り声を無視して、彼女は僕の横を通り過ぎて行った。僕はおばさんの所に走った。
「すみません、今の方はここにお住まいなんでしょうか?」
おばさんの顔を覗き込むと、、
「あれっ、あなた、この間もここをウロウロしてたでしょ」
人差し指をつき出して、おばさんが突っかかってきた。
「あ、いえ、僕は怪しいものではありません。あの家の売り物件を担当している不動産会社の者なんです」
物件の方に手をやり、最上級の笑顔で名刺を差し出した。
「え、あら、そうだったの? 近頃変な人が多いでしょ、だから何かあったら困ると思ってさ」
あの日、警察に通報したのはこのおばさんだったのか。ずんぐり体系でホルスタインのようなおばさんは見るからにお節介そうだ。このおばさんなら彼女のことを教えてくれそうな気がする。
「今の方はこの家の方なんですか?」
もう一度尋ねた。最上級の笑顔が功を奏したのか、おばさんの警戒心がなくなった。
「そうよ、おじいちゃんと2人で住んでたんだけど高校2年の時に亡くなってね。子供の頃は明るくてよく喋る子だったのに親が離婚したあたりから性格が変わっちゃってさ、おじいちゃんが亡くなってからは物も言わなくなっちゃったのよ」
ペラペラと、おばさんは水を得た魚のように喋り出した。

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