大吉
 


 徹は安定した状態が続いていた。植物状態でも普通に髪が伸びるし髭も生える、爪も伸びるし瞬きもした。でも身体を動かすことはなく、能面のような表情は変わらなかった。
 年が明け、徹の回復祈願にと人出が多い三が日をやり過ごし、翌日に母親と真紀ちゃんと三人で神社にお参りに行った。真紀ちゃんがおみくじで大吉を引き 、
「わぁ、何かいいことがあるかも知れない」 
 大声を出して飛び跳ねた。 
「お賽銭も奮発しちゃおう」 
 本殿の前で財布から500円玉を取り出し、
「100円でいいんじゃないの?」 
 母親の言葉を無視して勢いよく賽銭箱に投げ入れた。手を合わせて頭を垂れる。真紀ちゃんの願いは母親と僕の願い、真紀ちゃんに続いて母親も僕も賽銭を力いっぱい投げ入れた。 
「寒いけど気持ちいいね」 
 真紀ちゃんが空を見上げた。
「来年の正月は徹と一緒に来よう」 
 僕の言葉に母親と真紀ちゃんが頷いた。

 境内に顔を戻して、ずっ~と前方を見てギクッとした。山城麻衣と中年の男性が肩を並べて歩いて来ている。彼女は僕に気が付いていない。5、6m手前で初めて僕に気付き、驚いて立ち止まった。母親と真紀ちゃんも彼女の驚きに気付いたので、無視するのも変だと思い、
「こんにちは、お久しぶりです」
 近寄って彼女に声を掛けた。
「こちらの方は、あの事故の被害者の母親と妹さんです」 
 母親と真紀ちゃんを紹介し、
「おばさん、この方が車のナンバーを教えてくれた山城さんです。理由あって警察には山城さんのことは伝えていません」 
 麻衣のことを伝えた。母親はびっくりして麻衣を見た。 
「まあ、そうなんですか、はじめまして、川島徹の母です。その節は本当に有難うございました。お蔭さまで犯人が見つかり、気持ちが楽になりました。お礼の挨拶に行かなくてはならないのに勝手して申し訳ありません」 
 母親が大きく頭を下げた。 
「あ、いえ、どうも」
 答える麻衣の声は小さかった。 
「息子はまだ意識が戻らないんですが、戻ったら一番先に貴女のことを伝えたいと思います。本当に有難うございました」 
 何度も頭を下げる母親に麻衣は戸惑った様子で、
「あ、どうぞお気遣いなく」 
 軽く頭を下げて横の男性を促し、逃げるように去って行った。 
「大人しいお嬢さんだわね」 
 麻衣の後姿を見ながら母親が言った。一緒にいた男性は誰だろう。何となく麻衣に似ていたが、まさか、彼女の父親なのだろうか。